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診断事例 — 見積もりの読み解き

従業員20名の会社の「会計・給与の移行見積もり」を読み解く ― 移行費用と月額サポートの内訳を見る

診断事例シリーズ | 更新日:2026年10月31日

※ 架空の事例です。実在の会社・支援会社・製品・見積もりとは関係ありません。金額はすべて説明用の仮の数字です。
紙の帳簿からクラウド会計へ移るイラスト

会計ソフトをクラウドに替えたいと相談したら、支援会社から「移行パック」の見積もりが出てきた。合計だけ見ても高いのか安いのか分からない。情シスのいない会社では、よくある話です。この記事では、従業員20名の会社に出された会計・給与の移行見積もりを題材に、売る側ではない立場から、どこをどう見るかを順番に解説します。

会社の前提条件

  • 従業員数:20名
  • 見積もりの対象:クラウド会計・給与サービスへの移行(過去データの移行、初期設定、給与計算のセットアップ、操作研修)と、月額の利用料・サポート
  • 現在のやり方:インストール型の会計ソフトと、Excelでの給与集計。税理士とはデータ渡しでやり取りしている
  • 困りごと:月末の集計に時間がかかることと、税理士とのデータの往復にタイムラグがあること
  • 判断に使った情報:提示された見積書の内容と、現在のやり方についてのヒアリングのみ

提示案の内訳

まず、費用を「初期費用」と「ランニングコスト(月額×12か月=1年分)」に分けて並べ替えます。見積書の合計金額だけを見ると判断を誤りやすいので、このサイトではいつもこの形に直してから見ます。

区分項目金額
初期費用過去データ移行(3年分)300,000円
初期費用初期設定・勘定科目設定150,000円
初期費用給与計算セットアップ200,000円
初期費用操作研修(2回)100,000円
初期費用 小計750,000円
ランニング会計・給与 利用料9,000円/月
ランニング専任サポート保守15,000円/月
月額 小計24,000円/月
ランニングコスト(月額×12か月)288,000円
1年目の合計(初期費用+1年分)1,038,000円
総評

条件に対して高めに見えます。理由は3つあります。データ移行の範囲が「3年分まるごと」で固定されていること、研修と月額サポートの役割が重なって見えること、そして税理士との共有方法が見積もりの前提に書かれていないことです。順番に見ていきます。

気になる点

1データ移行が「3年分まるごと」になっている

初期費用で一番大きいのが、過去データ移行の300,000円です。ただ、過去分をすべて新環境に移す必要があるかは、使い方次第です。日々使うのは当期のデータで、過去分は「決算や監査のときに参照できればよい」という会社も多いはずです。旧ソフトで参照できる状態を残せるなら、移行範囲は当期分だけに絞れる可能性があります。何年分・何のデータを移すのかが、金額の根拠そのものです。

2操作研修と月額サポートの役割が重なって見える

初期費用の操作研修100,000円と、月額の専任サポート保守15,000円。どちらも「使い方を助ける費用」です。研修で何をどこまで扱うのか、月額サポートはメーカーの標準サポートと何が違うのかが、見積書からは読み取れません。メーカー側に無償のオンライン講座やマニュアルがある場合、研修の一部はそちらで代替できる可能性もあります。役割分担の説明を受けてから判断すべき項目です。

3税理士との共有方法が、前提に書かれていない

この会社の困りごとの半分は、税理士とのデータの往復でした。ところが見積もりには、移行後に「税理士とどう共有するか」が書かれていません。クラウドで税理士も同じデータを見られる形なのか、結局データ渡しに戻るのかで、この移行の価値は大きく変わります。会計・給与の記事でも書いたとおり、共有方法はソフト選びより先に決めることです。見積もりの前提に含まれていないなら、発注前に確認が必要です。

代替案を置いてみる

では、範囲を見直すとどうなるか。同等を目指した再構成の例を置いてみます(単価は説明用の仮置きです)。

区分項目金額
初期費用データ移行(当期分のみ、過去分は旧環境で参照)100,000円
初期費用初期設定・勘定科目設定80,000円
初期費用給与計算セットアップ(項目を絞って委託)100,000円
初期費用操作研修(メーカーのオンライン講座・マニュアルで代替)0円
初期費用 小計280,000円
ランニング会計・給与 利用料(標準サポートの範囲で運用)9,000円/月
ランニングコスト(月額×12か月)108,000円
1年目の合計(初期費用+1年分)388,000円

提示案との差は、1年目の合計で650,000円です。内訳は、初期費用の差が470,000円(データ移行 200,000円/初期設定 70,000円/給与セットアップ 100,000円/研修 100,000円)、ランニングコストの差が月15,000円 × 12か月で180,000円です。

ただし、ここは大事な注意点です。代替案は、移行範囲もサポートの手厚さも提示案と同一ではありません。この650,000円は「削減が確定する額」ではなく、「条件を確認し直す価値がある額」と捉えてください。安い方に寄せればよい、という話ではありません。

見積もりを出した会社への確認質問

この見積もりなら、発注の前に次の3つを確認します。そのまま送れる文面にしておきます。

  1. 「データ移行は当期分のみにした場合の金額を教えてください。過去分は旧ソフトで参照できる前提です」
  2. 「月額の専任サポートと、メーカーの標準サポートとの違いを教えてください」
  3. 「顧問税理士との共有方法は、この見積もりの前提に含まれていますか。クラウドで共有する形でしょうか」

質問に具体的に答えてくれるかどうか自体も、取引先を選ぶ判断材料になります。

結論

条件を確認してから進める。見積もりそのものを否定する必要はありません。確認すべき点が3つ見えているだけです。とくに税理士との共有方法は、この移行で一番の目的に直結します。質問への回答次第では、提示案のまま進める判断もあり得ます。大事なのは、合計金額の印象だけで決めず、初期費用とランニングコストに分けて、根拠を持って決めることです。

自分の見積もりで確認したい3つ

  • 初期費用とランニングコスト(月額×12か月)に分けて並べ替えたか
  • 移行の「範囲」(何年分・何のデータか)を言葉で確認したか
  • 導入後に、税理士とどう共有するかが見積もりの前提に入っているか